2010年05月13日

「初期ビデオアート」再考 (阪本裕文)

先日、東京芸大で開催され、欧米、国内を同時巡回上映している「Vital Signals(ヴァイタル・シグナル)  日米初期ビデオアート −芸術とテクノロジーの可能性ー」。その上映プログラム監修者の一人である阪本裕文氏のプログラムに寄せられた文章をご紹介します。
転載をご了承いただいた阪本氏に感謝致します。



「初期ビデオアート」再考
阪本裕文

 日本国内において、これまでビデオアートは歴史化されてこなかったのではないだろうか。特に私には60 年代に始まる初期ビデオアートから、90年代以降のメディアアートに至る流れには、ある種の切断があったように思える。ビデオアートとその周辺領域を繋げる歴史的言説の形成は、充分に成されてきたとは言い難く、それが例えば、1950 年代の「実験工房」の活動から、1960〜1970 年代の初期ビデオアート、そしてインターメディアの動向を経由して、同時期に国内に導入された実験映画とも関連しながら、1990 年代のメディアアートに至る…といったような連続的な言説を持つことは、最近までなかったと思える。これについて、私は90 年代の言説においては、メディアアートを、より新しいものとして、芸術と科学とのあいだに位置付けようとする傾向が顕著であったからではないかと考えている。ちょうどビデオアートを特化して取り上げるギャラリー、フェスティバルや、展覧会などの動きが弱まってゆくのが90 年代初頭のことである。そのような状況のなかで中心的な役割を果たし、現代美術のコンテクストに回収されることを迂回しながら、メディアアートの可能性を検討していったNTTインターコミュニケーションセンター[ICC]の活動は重要であったと思うが、テレビ番組でデジタルコンテンツの公募が行なわれ、コンピュータとデジタル機器の低価格化によってメディアが遍在化し、誰もが手軽に作品を作ることができる時代が到来するに至って、メディアアート前史としてのビデオアートの歴史が見えにくくなるという、断片化された状況を呼び込んでしまったように思う。また国内においては現代美術のコンテクストでビデオアートが検討されてこなかったために、ビデオインスタレーションの数が増加しても、それらが美術館でビデオアートとして取り上げられることは、ほとんど稀であった。加えて実験映画系のフェスティバルにおいてもビデオによる映像作品の数は増加するが、それらの多くは実験映画や個人映画のコンテクストに拠るものであり、ビデオアートの歴史とは切断されていたと言える。そんな状況がようやく変化しはじめたのは、2000 年代もなかばに差し掛かったころであったと言える。(例えば2005年にICCで開催された『Possible Futures アート&テクノロジーの過去と未来』や、2006年に神奈川県立近代美術館で開催された『メディア・アートの先駆者 山口勝弘展 「実験工房」からテアトリーヌまで』など。)

 初期ビデオアートの価値とは、映像作家や現代美術作家など、様々なジャンルの作家が入り交じり、複雑な要因が絡み合う状況下において、新しいメディアを諸関係の媒介として用いて、芸術の形態/表現の形式を多層的に模索したところにある。それはひとつのスタイルとして括ることなど出来ない、極めて豊かな文化であった。この上映プログラムは、EAIと横浜美術館、そしてキュレーターや研究者の連携のもと、60 年代から70 年代にかけてのビデオアート作品を、3つのセクション、6つのプログラムに分類し、初期ビデオアートの持っていた多層性を、それぞれの側面において浮かび上がらせることを狙いとしている。我々はこれらの初期ビデオアートを再考することで、ビデオによる映像表現の形態/形式が制度化する以前の段階へ、いつでも立ち戻ることができる。初期のビデオアートは技術的にはまだ貧しく、シンプルで基本的な機能しか持たないものであった。しかし、だからこそ初期ビデオアートは豊かな思想性を持ち、自らを成り立たせているテクノロジーとメディアに対して批評的であり得た。現在の、映像や文化が拡散し、歴史が断片化してゆく社会状況において、私は初期ビデオアートの持っていた批評性を様々なコンテクストから検討し、多層的な歴史的言説として紡ぐことは、有効であると思っている。歴史や文化が断片化してゆく社会状況であるからこそ、より強くそのように思う。

(本上映プログラム監修者/稚内北星学園大学講師)
posted by amky at 09:45| Comment(0) | TrackBack(0) | review
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